本の持つ無限の可能性を感じる度 : ★★★★★
本屋と図書館の夢の組み合わせを想像したくなる度 : ★★★★★
【本を通じて人とつながりたい、コミュニティをつくりたい人にオススメ】
本書のテーマは、そのものズバリで「まちライブラリー」について。
ライブラリーとはいっても、字面から想像するような「単に本を集めた図書館をつくろう」というものではありません。
まちライブラリーとは、「メッセージを付けた本を持ち寄り、まちのあちこちに小さな図書館をつくり、人と出会おうとする活動」のことをいいます。
つまり、本を手段として、人と人がつながる場所をつくることを目的とする活動のことです。
著者は、磯井純充氏。
「まちライブラリー」の提唱者であり、かつて大手のディベロッパーである森ビル株式会社で、社会人教育機関としての私塾の立ち上げに携わった経験を持ちます。
私企業が運営する教育事業であるがゆえに、いかに事業性を確保するかということに苦しみ、葛藤し、ついには休職するまで追い詰められた筆者は、あるとき自分の半分の歳ほどの「師匠」との出会いを果たします。
そして、「師匠」について全国を周りながら、その生き方に触れていきます。
・自分を出すのではなく、相手を値踏みするのでもなく、相手をどう生かしていくのか、どうやってその人を助けていければいいのかに専念する
・あらかじめ全体像を構想してそれを目指すのではなく、目の前の人といろいろなやりとりをしていく中で何かが生まれ、そのれによってまた次の何かが生まれるという、小さく一つ一つ駒を積み上げていく、そして決して無理をしない生き方。
・お金や組織がなければ何もできないと考えるのではなく、自分が本当にやりたいことから発想する
・学びは一人一人違い、その人がどう気づくかを考えること。「学びあい」とは、お互いの気づきあいであり、新しい一歩を踏み出すための知識や感性を受け渡していく作業。
これらの生き方は、まちライブラリーの活動を広げていく上での著者の基盤になっています。
筆者が立ち上げに関わり、本書で紹介されているまちライブラリーの事例では、損得ではなく、そこに集まる人の出会いから生まれる喜びや楽しさを見て取ることができます。
それでは、まちライブラリーとは具体的にどのような取り組みか、そこでどのようなことができるのか、まちライブラリーの可能性とは、といったことに注目して本書の内容を整理してみます。
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◆まちライブラリーの目指す基本スタイル
・権威のある人や成功した人たちから話を聞き知識を得るのではなく、お互いの考えていることや感じていることを発表しあい、相互理解を深め、学び合う
・肩書きや立場など関係ない学びあいのスタイル
・本を通じて人と出会う
◆まちライブラリーづくりの事例から生まれたこと
・本を持ち寄る人や本を借りていく人、本の著者など、「人を集める、人のライブラリー」
・ワークショップ形式の本棚やブックエンドづくりから、一緒につくる仲間を集める
・「図書館家族」
→ 何となく感性や雰囲気が合う人たちが本を通じて集まってくることによって、お互いの生活や行く末にゆるやかに関心を持ち、手助けができる関係性ができる
→ 本だけのつながりを超えた都会生活でのふれあいの場
・物を介し、人を介しながら、交流という新しい地域活動が生まれる。貨幣価値ではなく、自然発生的な地域活動の中で、やれることと、やりたいことを組み合わせていく生き方
・地域で新しい活動グループが生まれていくことで、まちライブラリー同士がつながり、地域に楽しい人が集まり、徐々に開かれたまちとして認知される
◆まちライブラリーの5分類
①まちの図書館をつくって本を貸し借りできる環境を大切にしている人たち
・本は捨てずに、シェアする
②本のテーマや利用目的を大切にしている人たち
・テーマや目的をはっきりさせると、それに共感する人たちが強い支持をしてくれる
・自らを鼓舞しやすい
③利用している場所を活性化するために本を置く人たち
・本を持ち寄った人が、なぜ持ち寄ったのかなどを書き残す
・単に本を置くのではなく、本を通じて仲間同士で情報交換する
・働く場、学ぶ場、治療する場が、本を通じて、サービス提供者と利用者、利用者同士の交流、共通の興味を発見する場になる
④公共図書館と連携しながら成長する人たち
⑤本で人と出会う、コミュニケーションを大切にした人たち
・本より好きなのは「人」
・本の紹介を通じて多様な価値観と出会う
・自分の価値観を共有してもらえる喜び
◆まちライブラリーの可能性
・「個人」は、「組織」よりも大きなものを生み出しうる情熱を持ち得ている
・「あなたが変わるとまちが変わる」
→ 一人一人の変化が全体として大きな力に変わっていく
「まちづくり」ではなく、「まちを育む」
→ まちは誰かの力によってつくられたり、変えられたりするのではなく、長い年月をかけて、住んでいる人たちの行動様式や考え方によって、少しずつ変化が生まれる
・本は心のよりどころ。人の気持ちは、本を通じて現れるものであり、その声を聞きあうのがまちライブラリー
◆まちライブラリーで大切なこと
・まず自らが楽しんで参加する
・自分の気持ちを素直に他の人に披露し、それを受け止める人がいる心地よさ
・人と人の間に生まれる心地よい「間」
・利害関係のない人に、心を開き、それを受け止めようとする人との出会いがまちライブラリー
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興味深かったのは、まちライブラリーの分類を、形ではなく、始めた人の動機やきっかけで分類されていることです。
人と人が集まる場としてのライブラリー、そしてその中心には大好きな本がある。
いやー、考えるだけで素敵な場所ですね!
必ずしも図書館である必要はなく、損得にとらわれない形での、本を持ち寄る人みんながハッピーになれる形での本屋という形態もありなのではないかと思いました。
そして、多様なバックボーンや趣味を持つ人たちを結びつける本の無限の可能性って改めてすごいですね!
考えてみれば、「本」と一言でいっても、文学、歴史、哲学、科学、宗教、経済、政治・・・とありとあらゆるジャンルがあります。
自分が好きな分野で人と思う存分語り合える、そんな時間が過ごせる場所というのはものすごく貴重なのではないでしょうか。
「本屋ときがわ町」への出店に向けて、そして将来の本屋の夢に向けて、よい学びとなりました。
ありがとうございます。