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地域経済が活性化しないことには、雇用を維持できない。
仕事がなければ、とくに若い人ほど出て行ってしまう。
高齢者ばかりが取り残され、社会保障の費用負担が増える一方なのに、住民が減って、税収維持もままならない。
このままでは自治体すら維持できない・・・
これは、本書の著者、元総務大臣の増田寛也さんが抱いている危機感です。
こうした危機感のもとに増田さんが書いた『地方消滅』は、一時大きな話題を呼びましたね。
では、地方が消滅しないためにはどうすればいいのか?
本書は、そうした問いへの回答書となっています。
本書では、以下の10の地域における地方創生ビジネスの事例が紹介されています。
①山形県鶴岡市 バイオベンチャーが生み出す「ハイテク蜘蛛の巣」
②宮城県山元町 被災というピンチを乗り越えたIT×農業による「ミガキイチゴ」
③福井県鯖江市 「めがねのまち」から「オープンデータのまち」へ
④栃木県宇都宮市 荒廃した大谷石の採掘場を活用したツアーで観光資源化
⑤熊本県山江村 安売り栗から献上栗のブランド化
⑥和歌山県北山村 オンリーワンの「じゃばら」で一点突破
⑦岡山県西粟倉村 森林・仕事・人を育てる村の総合商社「森の学校」
⑧北海道ニセコ町 カリスマ外国人による「夏のニセコ」の発掘で世界のリゾートに
⑨愛媛県今治市 有名デザイナーによる「白いタオル」のブランド化
⑩島根県海士町 Iターンの若者と「持続可能な」離島づくり
どの事例もやり方はさまざまで、立地条件や地域資源の種類も多様です。
ですが、共通している特徴があります。
それは、
①「ヨソ者」「若者」「バカ者」の活躍
→ 必ずしも域外から来たキーマンだけが突っ走るのではなく、それを支える域内のキーマンもいる
②困難や挫折を繰り返しつつ、それを乗り越えてきたこと
→ 最初からすべて順調だったわけではない。むしろ最初は失敗が多い。それでもステップバイステップで継続してきた
ということです。
ここでは、10の事例のうち、②宮城県山元町、④栃木県宇都宮市、⑩島根県海士町の3つの事例をご紹介したいと思います。
この3つの事例から、地方創生のヒントを得ていきます。
なお、⑦岡山県西粟倉村の「森の学校」については、以前このブログでも取り上げた『ローカルベンチャー』で詳しく紹介されていますので、よろしければそちらをご参照ください。
(『ローカルベンチャー』の紹介はこちら。)
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②宮城県山元町 被災というピンチを乗り越えたIT×農業による「ミガキイチゴ」
〇キーマン
・山元町出身で、東京でITコンサルで起業した岩佐大輝さん
〇背景
・地元の山元町が東日本大震災による被災
・被災前のイチゴの年間出荷額は約13億円で町の特産
・130軒のイチゴ農家の9割が被災、イチゴの単価下落、燃料価格高騰
〇手法
・旧態依然とした地元農業に、ビジネスの手法やITを組み込む
・温度、湿度、二酸化炭素濃度、日照、水、施肥、風向きなどをデータ化し、ITで栽培管理
・規模を拡大してもコストが上がらない、費用がほぼ一定のビジネスモデルへの転換
・農業技術をインドへ輸出し、世界展開
〇人を巻き込む
・イチゴづくり名人に弟子入り。データよりも最終的には名人の助言を採用し、成果
・地元農家の栽培データを集約
・プロボノ(プロが自らの専門分野を生かしてボランティアで社会貢献すること)によるブランディング、マーケティング
〇理念
・「儲からない農業」を「儲かる農業」へ
・世界的な人口増に対応して食料生産を維持するには、ITによる効率化も必要(サスティナブルな農業への転換)
④栃木県宇都宮市 荒廃した大谷石の採掘場を活用したツアーで観光資源化
〇キーマン
・長野県出身の松本譲さん
〇背景
・大谷石の採石場跡地の放置
・第三セクターによる宇都宮市農林公園「ろまんちっく村」の運営の行き詰まり
〇手法
・ろまんちっく村を、地元の生産者と消費者が直に触れ合える交流拠点とし、栃木の農業・商業・工業ブランドの受発信基地とする
・地底湖ツアー事業による大谷石採石場跡地の観光資源化
〇地元の生産者の反発
・「再生事業でひと儲けを企むとんでもないヨソ者」という反発
・宇都宮市の職員が地元の意見や陳情を全面的に引き受け、松本さんの後ろ盾に
・ある生産者からの言葉
「表立って賛同しないが、本音ではこれからの地域の夢を託そうとしている人がたくさんいる。だから、今やっていることを諦めたり、保守的になったりしては、結果的にその人たちの夢を壊すことになる」
→ 同じ方向を向いていれば、自分のやるべきことをやればいいという役割分担
〇理念
・実績が上がらなければ人はついてこない
・まずは成功事例をつくり、地元の人たちを巻き込みながら、徐々に生産者に事業を移管していくことが一番地元のためになる
⑩島根県海士町 Iターンの若者と「持続可能な」離島づくり
〇キーマン
・トヨタ自動車を辞め、海士町で株式会社「巡りの環」を立ち上げた阿部裕志さん(Iターン)
〇背景
・海士町は、人口3000人に満たず、5人に2人が高齢者という課題先進地域
・全国に先駆けて、Iターン・Uターン政策に乗り出し、2004年からの10年間で大きな成果
・島まるごとブランド化による産業創出と、高校魅力化プロジェクトに代表される人づくり
〇移住を決める人の縁
・若者が移住するときの最初のきっかけは、SNSなどによる仲間の口コミが多く、ネットワーク化する
・仲間が移住すると、人のつながりで移住してくる人が増える
〇地方でのチャレンジ
・田舎にも仕事があり、人が足りない
・自分で面白い仕事をつくっている人がいると、それを見てやる気のある人が田舎暮らしに飛び込んでくる
・田舎ベンチャーは、複数事業で合わせ技一本でいい
・「ヨソ者」の視点は大事だが、いつまでも「ヨソ者」扱いされていると思うように力を発揮できない
→ 一つのことだけをやっているのでは、なかなか地域の人に認めてもらえない
積極的に地域の人と交流し、自分にできることを率先して引き受けることで、信頼が得られる
〇理念
・自分たちの未来は、そこに住む自分たちの手でつくっていかなければ借り物になってしまう
・一時的な浮上ではなく、子の世代、孫の世代へと受け継がれる持続可能な取り組みが必要
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本書で取り上げられた事例は、宇都宮市を除くと大半が過疎や高齢化に悩む小さなまちです。
特に和歌山県北山村は、人口がなんと460人。
それでもその地域特有の「じゃばら」で、約3.5億円という売上を上げているといいます。
「お金は重要じゃない」
「稼ぐこと=悪」
ということがよくいわれますが、お金は重要です。
問題は、それを何のために稼ぎ、どのように使うかということ。
誰か一人だけの利益にしかならないのでは、それは批判されてしまうでしょう。
地域全体でお金を稼ぎ、それがみんなの収入となり、まちの収入となり、まちに必要なインフラ整備や事業に使われていくこと。
もっといえば、地域で必要なものは地域でつくり、使い、ないものだけを外から買う、余ったものは外へ売るという仕組みをつくることが持続可能な社会をつくるのではないかと思います。
(考えてみれば、これって昔は当たり前にやっていたことですよね・・・)
また、小さな地域というのは、人の活動が見えやすい。
これは大きな都市にはないことです。
それに大きな都市ほどモノがないので、そこで新しいモノをつくる余地がたくさん残されている。
こうしたことが、「地域にはチャンスがたくさんある」ということなんでしょうね。
私自身、都会の生活は絶対嫌だと思っていますので、起業するなら絶対「東京以外」と決めています笑
でも本屋がないのも嫌だなあ。
その点、「ほどほど都会で、ほどほど田舎」の埼玉県。
いろいろなチャンスが見つかりそうです。
ありがとうございました。